『第九』は高い? (2008/11/07掲載)

■渡海さんのこと
いよいよあと1ヶ月に迫った『都響の第九』。合唱団の練習にもいよいよ熱が入ってきました。合唱団のメンバーには全くの初心者から何十回も第九の経験のあるベテランまでいろいろな方がいますが、皆さん「大館では最初で最後かもしれない」という思いで練習に取り組んでいます。
先日は二期会会員の渡海(わたるみ)千津子さんが合唱団の練習に特別参加してくれました。近頃二期会オペラの準主役級でよく名前を見かける若手の実力派ソプラノ歌手ですが、実は合唱指揮の斎藤育雄先生の奥さんでもあります。渡海さんから付きっきりで指導を受けた合唱団が出す声はみるみる内に力強さと深さを加えていき、自分たちも驚くほどしっかりとした響きに変わりました。その成果は、どうぞ本番でお確かめください。

■Sさん夫婦のこと
第九合唱団でテノールを歌うSさんは長く営団地下鉄などに勤め、98年に、病いを得た奥さん(以下Kさん)の地元である大館にAターンしました。夫妻は共に合唱を趣味とし、東京では新都民合唱団に籍を置いて25回の『第九』出演をはじめ、都響のマーラー『千人の交響曲』や海外演奏にも一緒に参加してきたとのことです。筆者は大館樹海ドームにいた頃、大館に移った頃のSさんから、いつかドームで第九をやってみたいですね、と話されたことを覚えています。
大館に来てからもKさんは秋田声楽研究会や大館フラウエンコールに参加していましたが、病いが篤くなってやめざるを得なくなりました。それでも文化会館のコンサートに夫婦揃って来ていたのですが、それも途絶えて、昨年の3月、57歳の若さで逝去されました。
大館で『第九』を歌う日を夢みて大事にとっておいたKさんの舞台衣装を、今回Kさんと同じパートのメンバーに着てもらうことになりました。また、Kさんの終末期をヘルパーとして支えてくれたIさんも合唱団に参加しています。常々歌が生きがいだと言っていたKさんの、そして家族の病気などで途中で脱退せざるを得なかった何人かの団員の思いも乗せて、12月6日には歓喜の歌が流れることでしょう。

■第九は高い?
今回の『都響の第九』の料金は、宝くじの助成もいただきながら、一般6300円、学生3000円という、決してお安くない値段になっています。内幕やお金の話を書かれるのは興冷めかも知れませんが、少しだけお付き合いください。
プロのオーケストラで第九をやろうとすると、事業費は全体で1千万円を超えます。百万円単位の助成をいただき、会館としても年間事業費の3分の2以上をつぎ込んでいるのですが、チケット料金はこのくらいになってしまうのです。ちなみに、この年末東京でのプロオーケストラの第九の料金は、S席で8千円から9千円くらい、N響は1万3千円です。ほとんど都内といってもいい松戸市(合唱は市民合唱団)でも7千円でした。人数の多いオーケストラの場合、東北では(首都圏ではかからない)交通費の負担がさらに大きくのしかかるのです。
全国を見渡すとアマチュア・オケを起用しての廉価な料金の第九もありますが、開館25年を過ぎて初めての全曲演奏は一流の演奏を聴いてもらいたいのです。そして当館で第九を行うのは、諸般の情勢を鑑みると今をおいて他にないと思うのです。言葉足らずですが、状況をどうかご理解の上お運びくださいますようお願いいたします。 (陽)

■ピアノマラソン出場者募集中です
12月21日(日)開催の、当館オリジナル企画イベントとして好評の「ピアノマラソン」出場者募集中です。ソロだけでなくバンドなどでの出演もOK。出場希望の方は11月22日(土)までにお申し込みください。(工)