特別な「舘野泉」 特別な「第九」 (2008/10/03掲載)

■舘野泉の特別
藝大を出てすぐにソリストとして活動することや留学経験がないことなどはそれほど特別なことではないでしょうが、卒業後誰にも教えを乞うたことがないと自分で言えるのは実に稀なことです。60年代に、ウィーンやロンドンなどの音楽産業の中心地でなく、北欧フィンランドに居を構えるのもかなり特別なことでしょう。音楽生活の始めから「自分の音」を持ち、自らを頼む心を持ち続けた舘野さんらしい生き方です。
100枚以上のCDをリリースし、世界各国で3千回以上のコンサートを行ってきたというのも、凄いキャリアですね。日本人としてはおそらく空前のことです。旺盛な演奏活動が40年以上続いていることも日本人としては珍しいことで、普通大家と呼ばれるようになると、1年の半分以上を演奏活動に費やすことなど考えられません。未だ無理のできない現在はさすがに回数は控えざるを得ないものの、自らを実戦に生きる「野武士」と呼ぶ覇気はいささかも衰えていないようです。
そしてあの「舘野泉の音」。右手が使えなくても演奏活動を再開したのは、自分の「音」が失われていないためであり、さらには右手だけでも自分の「音楽」が表現できるためです。各地で満員の聴衆が詰めかけ、日本人ピアニストとしては初めてのファンクラブが今も続き、そして多くの作曲家がその左手のために作品を捧げる舘野泉。ほんとうにたくさんの人たちが、それぞれに自分にとっての舘野泉と「舘野泉の音・音楽」を感じ、生きる力にしているということでしょう。
今回のコンサートタイトルは「舘野泉のピアニズム」という耳慣れないものです。ピアニズムの辞書的な意味は「演奏技術」ですが、それだけでなく、舘野泉の生き方や思いも含めすべてをピアノで表現するという、自負や覚悟や自信がない交ぜになったネーミングだと思われます。
思い余ってことば足らずになってしまいましたが、舘野泉のコンサートは限られたクラシックファン、ピアノファンのためだけのものではありません。なにしろ実戦と実践に鍛えられた野武士の音楽ですから、誰にでも分かります。しかも、誰にとっても至高の体験となる可能性があるコンサートです。ぜひひとりでも多くの方がそれぞれの「特別な」舘野泉体験をしていただきますように。
「舘野泉のピアニズム」、いよいよ10月5日(日)午後4時開演です。蛇足ながらチケットまだあります。

■「第九」の特別
ベートーヴェンの「交響曲第9番ニ短調作品125≪合唱付き≫」がついに大館初演を迎えます。ウィーンでの初演から実に184年、日本初演(鳴門市・坂東俘虜収容所)からも90年かかって実現しました。いやあ、長かった(以下、ネタは次回まわし…)。
ということで、文化会館としても悲願であった「都響の“第九”」、大館市合併3周年記念事業として、12月6日(土)午後3時開演です。全席自由で、前売一般6300円、学生(小中高大学)3000円です。前売券の発売は10月12日(日)9時より各プレイガイドで開始します。お問合せは大館市民文化会館まで。 (陽)