見逃せない瞬間があります (2008/09/05掲載)

 先月9日、当館では三代目神田山陽独演会が開催されました。三代目山陽さんといえば、現在の講談界を引っ張る若手講談師で、テレビ出演など様々な方面で活躍されている方。今回は巨大なカヤを大ホールの舞台上に吊って、山陽さんもお客様もその中に入って独演会を創り上げるという前代未聞の独演会だったのですが、短編を交えながら止め処なく繰り出される山陽ワールドと、それに呼応するようなお客様の反応が同時にカヤの中に密封されて、まさに演客一体となったエネルギーがヒシヒシと伝わってくるような素晴らしい独演会でした。この独演会を見逃した方は随分と惜しいことをされたのではないかと残念に思います。

 さて、そこで「失敗!」と思ってしまった方々にお知らせです。毎年恒例となりました「おおだて特選落語会」が開催されます。もちろん山陽さんでも、講談でも、カヤの中でもありませんが、同じ日本の伝統話芸である落語がみっちり堪能できる濃厚な2時間になること間違いありません。今回は柳家さん喬、喬太郎師弟が共演する所謂“親子会”で、古典の王道をひたすらに歩んでいる師匠・さん喬さんと、その弟子でありながら新作と古典の二刀流で、今やチケットが取れない噺家のひとりとなった弟子・喬太郎さんの共演は見逃すことができません。特に大館初登場となるさん喬さんは、テレビなどでの露出がほとんど無い方だけに、その話芸に触れられるのは高座しかありません。あたかも映画や演劇のワンシーンを観るような、こちらの想像力をグイグイ喚起する見事な話芸、そして落語界で最も美しいといわれる高座での所作をぜひこの機会にご堪能ください。「おおだて特選落語界vol.12」は、9月26日(金)19時開演。大館市民文化会館中ホールにて開催です。ぜひお見逃しなく。

 話はガラッと変わりますが、もうひとつの見逃せない公演「舘野泉のピアニズム〜左手の音楽〜」が来月5日に開催されます。リサイタルの舞台上に脳溢血で倒れ、右半身麻痺という後遺症との闘いを経て“左手のピアニスト”として復帰するという壮絶なストーリーは、テレビ番組でも何度か取り上げられているのでご存知の方も多いと思います。世界で活躍するピアニストだった人間が、右手の自由を奪われるということ。それがどれほどの苦悩や絶望をもたらすものなのか、私には想像することさえできませんが、ただ、その困難をまさに血の滲むような努力と強靭な精神力で乗り越えてきたピアニストが奏でる音楽が、我々の心を動かさないはずはないと思うのです。舘野さんは自叙伝の中で『自分の心の中を「手」によってつくり出した「音」で表現していく。それが音楽になる』と語っています。舘野さんのその左手の五指から紡がれる音楽、つまりは“舘野泉の心”をぜひこのリサイタルで多くのお客様に感じてほしいと思います。舘野さんのファンの方はもちろん、立場は違っても同じ境遇にある方、医療や福祉に携わる方、全ての方々に勇気や感動を与え、そして必ず何かを考えさせられるリサイタルになることでしょう。「舘野泉のピアニズム〜左手の音楽〜」は、10月5日(日)16時開演です。チケットのお求めはお早めに。(山)