左手のピアニスト (2008/08/01掲載)

■舘野泉のピアニズム
右手の自由を失うということは、ピアニストにとってどのような意味を持つものなのでしょうか。もちろん私はピアニストではありませんし、音楽を生業としているわけでもありませんから、あくまでも想像することしかできないわけですけれども、ピアノへの情熱が強ければ強いほど、その絶望や苦悩が大きいであろうことは想像に難くありません。
さて、みなさんは舘野泉というピアニストをご存知でしょうか。私が舘野さんのことを知ったのは、数年前にNHKで放送されたドキュメンタリー番組「左手のピアニスト〜舘野泉ふたたびつかんだ音楽〜」を偶然目にしたのがキッカケでした。それ以来ずっと気になっていたピアニストのひとりで、いつの日か舘野さんの生の演奏が聴きたい、大館市民文化会館でリサイタルを開催したいと思っていたのです。
舘野さんは1936年東京生まれの72歳。日本人の現役男性コンサートピアニストでは最年長ではないかと思います。東京芸大を首席で卒業後、フィンランドに生活の拠点を置きながら世界各国でリサイタルを開催するなど、コンサートピアニストとして活躍していました。2002年、フィンランドでのリサイタルで最後の曲を弾き終えた彼は、聴衆に一礼し袖に向かって歩を進めたところで舞台上に崩れ落ちました。脳溢血でした。幸い命に別状はなかったものの、右半身不随という後遺症が残り、ピアニストの生命ともいうべき右手の自由を彼は失ってしまったのでした。40年もの間ピアニストとして精力的に活躍してきた彼にとってそれは、死刑宣告にも等しいものだったのではないかと思います。しかし彼は、そんな絶望と苦悩の日々を不屈の精神で乗り越えて2004年5月"左手のピアニスト"として演奏会復帰を果たすのです。復帰後の舘野さんは以前にも増して精力的に活躍されていて、多くの著名作曲家が彼のために新曲を書き上げるなど、音楽の世界に新たな財産が築かれつつあります。
そんなストーリーを持つ“左手のピアニスト”が当館にやってきます。その左手の五本の指から紡ぎだされる“舘野泉の音楽”は、聴く者全てに感動を与えることでしょう。「舘野泉のピアニズム〜左手の音楽〜」10月5日(日)16時開演。大館市民文化会館大ホールにて開催です。チケットは8月10日(日)9時一般発売開始。お求めはお早めに。(山)

■佐藤卓史の公開レッスン
9月3日に当館でリサイタルを行う佐藤卓史さんが、ピアノの公開レッスンを行うことになりました。ピアノを本格的に習おうとする若者(小学生から高校・大学生まで)を対象にしたマスタークラスです。日本音楽コンクールやシューベルト国際ピアノコンクールの優勝者によるレッスンを直接受けるという、得難い機会です。北鹿新聞紙上などで既報のとおり、締切は8月4日、4名限定ですがふるってご応募ください。詳しくは文化会館までお問い合わせを。
公開レッスンは9月2日(火)の午後5時から7時半まで、文化会館大ホールで行います。レッスンの模様を見聴きするだけでも、ピアノを習っている人には勉強になり、習っていない人にもピアノ音楽の勘どころを知るいい機会になります。入場は無料ですので、ぜひご来場ください。
それからもちろん、本番のリサイタルもチケット好評発売中です。おおぜいの方に鑑賞していただくため、料金は廉価に設定しました。こちらもぜひ。(陽)