『天満敦子の贈りもの』 (2006/07/21掲載)

6月21日に当館で行われた天満敦子さんのヴァイオリンリサイタルでのこと。実は今回のリサイタルでは、天満さんの代名詞とも言える「望郷のバラード」が予定外に2度演奏されるというサプライズがあったのでした。

コンサートの前日、担当者である私はお客様からの1本の電話を受けていました。そのお客様は青森県在住で、天満さんのコンサートをとても楽しみにしているとのこと。ただ、帰りの電車に乗るためには、プログラムの最後に演奏を予定している「望郷のバラード」を聴かないで帰らなければならず、それが残念でならないとのお電話でした。お客様も今それを訴えてもどうにもならないということを承知で話されていましたが、残念さのあまり誰かに伝えずにはいられなかったのでしょう。私もそれだけ思い入れのあるお客様の気持ちに応えたかったのですが、天満さんサイドから出されたプログラムを勝手に変更するわけにもいかず、一応天満さんにはお伝えしますという旨のお話をし受話器を置いたのでした。

さて、日付が変わってコンサート本番。私は会場受付の仕事をしながら、スピーカーから聴こえる天満さんの演奏に耳を傾けていました。魂を揺さぶられるような「チゴイネルワイゼン」で前半は終了、後半は「アヴェマリア」からはじまる予定でした。後半の開演を告げるベルが鳴り、拍手とともに天満さんがステージに登場すると、突然「望郷のバラード」を演奏し始めたではありませんか。突然のプログラム変更。きっと誰もが驚いたに違いありません。実は前日の電話の件をマネージャーさんから伝え聞いた天満さんは「望郷のバラード」を後半の1曲目に演奏してくれたのです。天満さん流のサプライズ。会場のお客様へのプレゼントでした。そのお客様はさぞかし嬉しかったことでしょう。きっと自分のためだけに、あの天満敦子さんが演奏してくれていると感じていたに違いありません。また天満さんはプログラムどおりにラストの無伴奏「望郷のバラード」も、何事もなかったかのように演奏してくれたのです。他のお客様にとっても、予期せずして無伴奏とピアノ伴奏の「望郷のバラード」が聴けるという贅沢な夜となったのでした。

名器ストラディヴァリウスの音色は勿論のこと、天満さんの演奏は素晴しいものでした。しかしそれ以上に天満さんの素晴しい人柄に惹かれ、天満敦子という音楽家をますます好きになった夜でした。またいつかここ大館に来てくださる日を楽しみに。

さてさて話はガラッと変わりますが、9月23日(土・祝)におおだて特選落語会を開催します。今回は柳家権太楼さんと三遊亭白鳥さんのお二人で…と色々書こうと思いましたが紙面が尽きてしまいましたので落語に関するお話はまた次回以降に。チケット好評発売中です。ぜひお見逃しなく。(山)