31年目のオペラ (2012/10/06掲載)


□初のプロ公演「トスカ」

 昭和57年の文化会館オープン以来初めて、一般対象のプロによるオペラ公演を10月3日に開催しました。

 オーストリアの首都ウィーン近郊のバーデンは、モーツァルトやベートーヴェン、シューベルトもたびたび訪れた有名な温泉保養地です。この街の名物のひとつが、ヨーロッパの「オペレッタのメトロポール(首都)」と称される劇場です。そのバーデン市劇場が毎年来日するようになって17年。やっと大館での公演が実現しました。演目は「トスカ」。プッチーニの頂点をなす傑作歌劇です。


□成功とは?失敗とは?

 フィガロやカルメンといった超有名歌劇でないためか、オペラ公演の蓄積がないためか、大館公演の入りは残念ながら半分程度。ポスター・チラシはもちろん、テレビや新聞、DMやネット等でも懸命に宣伝したつもりですが、予期した集客は果たせませんでした。過去の経験から、数字に表れる集客や収支をもって成功失敗を判断される向きも多いので、その点では当館のオペラへの挑戦は失敗かもしれません。でも本当にそうなのでしょうか。

 文化会館を運営する大館市文教振興事業団は、公益増進を目的に設立された財団法人です。事業予算の内、市からの事業委託費(今年度は500万円)は年度契約による定額で、赤字になっても補てんしてもらえる訳ではなく、次年度にその分が積み増しされることもありません。財団の財政基盤を考えるなら、普通は無難な事業展開を考えるところです。せいぜい4・5本の公演を行って、高額なポップス公演やオーケストラ、ましてやさらに高額なオペラ公演など論外ということになるでしょう。県内の公立ホールを見渡せば、年間の自主事業が0〜3本のホールがほとんどで、年間20本内外の事業を行っている当館は例外的なホールなのです。貸館のツアー公演が行われる中核都市のホールの方が頑張っているように、傍目には見えるのかもしれませんが…。


□オペラと関連事業の意義

 今回の公演は、奈良や佐賀などの3館と共に財団法人地域創造の連携プログラムの助成を受けて実施しました。

 当館では関連事業として、公募の合唱団でオペラの合唱曲を歌うワークショップを行い、ソプラノの渡海千津子さんのリサイタルの実施と合唱団の共演も行いました。合唱団には既存の合唱団員でない人たちも参加し、指揮者斎藤育雄氏と渡海さんの指導を受けてみるみる歌声と表現が向上して、参加した誰もが大きな刺激を受けていました。

 これらの事業を通して、すぐに何かが変わるわけではないでしょう。それでも、大館でもやりようによってはプロのオペラ公演が可能なこと、プロの指揮者・歌手との結びつきを繋げられたこと、少しでも合唱団に若い人の参加が見られたこと等々、いくつもの意義や希望が見い出せたと思います。


□やっとできた連携事業

 個人的にも今回の公演は様々な思いを禁じ得ません。

 12年前、文化会館への異動初年度に連携プログラム(県外ホールとの連携が必須)の活用を考え、近場と連携した方が楽だろうと隣県の同規模館を訪ね歩いたことがあります。たいへん勉強になった旅でしたが、連携については、予算の潤沢な館は必要を認めず、予算が乏しく事業展開に消極的な館は挑戦意欲がなくて不調に終わりました。

 いつかはと思っていたことがキャリアの最終コーナーでやっと実現したことに、深い感慨を覚えています。


□いつかまたオペラを

 今回の「トスカ」で、海外の大劇場の引越公演でなくても一流のオペラが観られるということを、鑑賞した皆さんには理解してもらえたと思います。小振りでも十分な迫力のオーケストラ、コーラスに至るまでメンバー個々の歌唱力の高さ、そして主役級の演技と声量の圧倒的迫力。素晴らしい「トスカ」でした。

 そのことは、自然発生的に生じたスタンディング・オベーションとブラヴォーの声、観客数からは考えられないほどの拍手の大きさが物語っています。大館のお客さんはいいものはいいと分かるし、感動や感激の表し方も知っています。当日の観客の姿は、まさに私たちがこの12年間追い求めていたものでした。

 正直なところオペラを毎年やる体力は当館にはありません。それでも、この日観てくれた人たちは、初めての人でもオペラの素晴らしさを実感してもらえたはず。その感激を、ぜひ多くの人に伝えてほしいものです。

 いつかまたオペラを。次の機会をまた30年後にしないために、希望を持って願い続けようと思います。(陽)