『タンゴが聴きたい』 (2005/10/28掲載)

「昔は高校のブラバンのコンサートといえば必ずマンボとかラテンが演奏されたよなあ」、「サックスがロングトーンを競ったりして」とは昔のラッパ仲間との会話。大人のビッグバンドも今は活動している団体がなく、生のラテン音楽を聴く機会もほとんどなくなってしまいました。

中南米で生まれたラテン音楽の中でも、タンゴは一種独特な色合いがあります。ご存知のようにラテン音楽はカリブ海地域で黒人音楽と白人音楽が出会うことで生まれました。そのハバネラのリズムが船乗りたちによって南米の白人国家アルゼンチンの港町ブエノスアイレスに持ち込まれ、タンゴになっていったのです。そして、なべて中南米音楽がそうであるように、タンゴも社会的に抑圧された人たちが生み育てた音楽でした。

十九世紀中頃ドイツからアルゼンチンに、バンドネオンという楽器が紹介されました。この蛇腹とボタンが特徴的なアコーディオンに似た楽器はザッザッというリズムを刻むのに適しており、たちまちタンゴに欠かせない楽器となりました。タンゴ楽団の編成は、このバンドネオンとピアノ、ヴァイオリン、そしてベースが基本となり、それに歌とダンスが加わります。

近年タンゴはクラシック畑の演奏家が好んで取り上げ、ブエノスアイレス生まれの指揮者・ピアニストであるバレンボイムもタンゴのアルバムをつくっています。そしてアルゼンチン生まれの演奏家といえばマルタ・アルゲリッチを忘れるわけにはいきませんが、そのアルゲリッチと若い頃コンクールで一位を分け合ったというのが、音楽大学の教授を務める傍らみずからの楽団で世界中のタンゴファンを魅了する、エンリケ・クッティーニその人です。

さまざまな情念を描き出す『タンゴ・エモーション』。十一月六日の宵は音楽とダンスに酔って下さい。   (陽)